私たちが暮らしている「飯能市」では、これまで「財政は健全」とされてきました。しかし、最近になって「緊急財政対策」をとる必要がある、という報道がなされました(埼玉新聞、2025年2月8日配信「埼玉の都市が財政危機に 財政調整基金残高わずか4億円、適正規模の5分の1  飯能市長「危機的な財政状況」 災害発生時に対応できなくなる恐れ 人件費削減など緊急財政対策へ」など)。
 そこで、なぜ飯能市がそのような対策をとることになったのか、そしてその背景にどんな問題があるのかを、飯能市のサイト内ページ「持続可能な行財政運営に向けた緊急財政対策について(最終更新日2025年2月14日)」を元に、できるだけわかりやすく説明します。
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「財政調整基金」の枯渇
 飯能市では、高齢者の増加や子どもを育てる家庭への支援、道路や公園の整備など、さまざまな取り組みを行ってきました。こうした活動は限られたお金や人手をうまく使いながら進められ、一定の成果も出ていました。
 しかし、今、日本全体で人口減少や超高齢社会が進んでいます。飯能市もその影響を受けており、税金の収入があまり増えない一方で、福祉にかかるお金は、どんどん増えています。
 そんななかで2025年度(令和7年度)の予算をつくるとき、次のような問題が明らかになりました。
 ・高齢者や子どもを支えるための福祉費用が増えた
 ・古くなった公共施設(建物や道路など)の修理や維持にお金がかかるようになった
 ・その結果、2024年(令和6年度)の予算よりも40億円も多い予算が必要になるとされた※
 ※2024年度の飯能市の予算は約304億5,000万円、2025年度の予算要求は約344億円
 市は公共施設の工事を先送りするなどの調整を行い、最終的な2025年度の予算案を318億5,000万円としましたが、それでも支出増は避けられませんでした。
 そこで、市は「財政調整基金」という“市の貯金”を取り崩して補いました。この“貯金”でなんとか予算をつくることができたのですが、その結果、令和7年度の終わりには財政調整基金は約4億円しか残らない見込みとなりました。
 財政調整基金とは市の貯金のようなもので、災害が起きたときや、収入が少なくなったときのためにとっておくお金です。通常、予算の約10%が基準とされています(飯能市の場合、30億円程度)。
 貯金がほとんどなくなると、たとえば大きな地震や豪雨があったときに、必要な対応ができなくなるかもしれません。
 つまり、財政調整基金の減少により、市民の生活に大きな影響が出る可能性があるということです。

補足:「財政は健全」とはどういう意味だったのか?
 では、これまで市が「財政は健全」と言っていたのは、どういう意味だったのでしょうか?

 財政の健全性は、①「健全化判断比率」②「資金不足比率」という基準を使って判断されています。
 ①「健全化判断比率」とは、市の財政状態を4つの項目でチェックする数字です。
 ・実質赤字比率(その年の赤字がどれくらいか)
 ・連結実質赤字比率(全体の赤字がどれくらいか)
 ・実質公債費比率(借金の返済がきちんとできているか)
 ・将来負担比率(これから払う予定のお金がどれくらいあるか)
 一方、②資金不足比率とは、水道事業など、市が行っている事業に必要なお金がきちんと足りているかを示す数字です。
 これらの数字は、2023年度(令和5年度)の決算では国が定めた基準よりもずっと良い値で、「財政は健全」と言える状態でした。
 ですが、近い将来貯金がほとんどなくなってしまいそうになると思われたため、「今すぐに何かあったら対応できない」という危険な状況になってしまったのです。

なぜ「緊急財政対策」が必要なのか?
 ただし社会保障にかかるお金が増えているのは全国共通の問題です。ですが、飯能市にはそれに加えて特別な事情があります。
 それは「昔の借金の返済が今ピークを迎えていること」です。
 飯能市は2005年度(平成17年度)に名栗村と合併しました。そのとき、道路や橋などを整備するために、「合併特例債」という借金を約116億円も借りて、大きな工事を行いました。
 この借金の返済が今ちょうど返さないといけない時期に入っており、2024年度(令和6年度)には約34億円ものお金を返す必要がある見込みです。その一方で、高齢化や子育て支援などの福祉にかかるお金もどんどん増えています。
 つまり「福祉にもお金が必要」かつ「借金も返さなきゃいけない」というダブルパンチで、市のお金がかなり厳しくなっているのです。
 この「合併特例債」は、合併した市町村が使える「特別な借金」のしくみです。
・市や町が合併するときに、道路や学校などを新しく作るためのお金として使える。
・借りたお金のうち、70%は国からもらえるお金(普通交付税)で返せる。
・合併した年から数えて、ふつうは10年間まで使える。東日本大震災の後、一部の市町村では使える期間が20年に延長された。
・この制度のおかげで、大きな工事や施設の整備ができるようになる。
 ただし注意点もあり、
・必要のない工事や施設にこのお金を使ってしまうと、将来、たくさん返済しなければならなくなり、かえって市の財政が苦しくなる。
・したがって、借りる前に「この事業は本当に必要か?」をしっかり考えることが大切
 飯能市は今まさに、「当時のお金の使い方を踏まえたうえで、考え直す時期に来ている」ということです。

おわりに
 飯能市が発表した「緊急財政対策」は、単にお金が足りないからという理由だけではなく、市民の暮らしを守るために、今後のまちの運営を持続可能なものにするために必要な行動だと思います。
 ただし、「緊急財政対策」について考えるときも、あまりに危機を煽るのではなく、しっかりと物事の経緯を見直してみることが大事だと思います。
 次回は「緊急財政対策」の概要について述べてみたいと思います。